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札幌国際芸術祭(以下、「SIAF」という)は、20歳から40歳までのアーティストなど(キュレーター、企画、コーディネーターなど実践者および志望者を含む)を対象に、リサーチとアーカイヴの手法を学ぶ旅のワークショップ参加者を公募、国内外からの36名の応募の中から下記11名の方を選びました。SIAFは3年に1度、札幌市で行われる国際的なアートフェスティバルです。2回目となるSIAF2017の開催に向け、北海道・札幌の滞在体験から生まれる作品、アートプロジェクトの始まりを期待しています。そこで、SIAFはアーティストなどによる北海道・札幌での現地調査活動と制作活動といった創造的な取り組みをこれからも支援していきます。
企画:さっぽろ天神山アートスタジオ/一般社団法人 AISプランニング
主催:創造都市さっぽろ・国際芸術祭実行委員会
助成:文化庁 平成27年度 文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業
島袋道浩(アーティスト)
須之内元洋(札幌市立大学講師、デジタルアーカイヴ研究者)
藤木正則(アーティスト)、村田真(美術ジャーナリスト)、吉本ばなな(小説家)、中村絵美(アーティスト、郷土写真研究、知床羅臼観光協会)
坂巻正美、永岡大輔、松本力、夕張ガイド:佐藤真奈美(清水沢プロジェクト)
2016年3月の15日間にわたり、札幌市のアーティスト・イン・レジデンス拠点さっぽろ天神山アートスタジオに11名の参加アーティストと講師、ゲストが代わる代わる滞在し、レクチャー、交流会などを全員参加のプログラムをスパイスに、参加者各自が自律的に活動するワークショップを企画、開催しました。
ガイダンス、参加者のプロジェクトや作品プランについて、メイン講師の島袋道浩氏とマンツーマンで話し合うチュートリアル、さらに、リサーチや滞在型の制作活動を経てプロジェクトを実践するゲスト・アーティストによるトークとフィールドワーク(日帰りの道内旅行)、複数回にわたるチュートリアルとプレゼンテーションの実施、そしてデジタルアーカイヴの講義でした。
準備されたプログラムをこなしながら、参加者は市内、道内を巡り、思い思いのテーマに沿って時間の限り旅をしました。11名の参加者はそれぞれが別行動しながらも、レジデンス拠点に滞在していることから、集いの場では仲間としてお互いにアドバイスしあったり、励ましあったり批評しなうなどワークショップならではの充実した交流をはぐくみました。
旅の経験からプロジェクトや作品プランを組み立て、ワークショップの最終行程では《SIAFラボ》が拠点とする札幌市資料館にて、講師を前にした最終のプレゼンテーション(講評会)を経て、各自の成果を一般に公開しました。
同時に試みた、ワークショッププログラム自体の、また参加者ひとりひとりの記録はデジタル化され、データベースに記録保管されています。膨大なデータから素材を選び、このドキュメント・ウェブサイト(一般公開メディア)を作成しました。
ここでは、アーティストがどこに行き、なにを見たのか、その時なにを思ったのか、という記録の一部が公開されています。アーティストの作品は、アーティストのこれまでの経験や考え方が入り混じった状態でアプトプットされます。行った場所、見たものやことがそのまま作品になるとは限りません。この点はアカデミックな研究者の行うリサーチやフィールドワーク、素材の取り扱いとは異なります。しかしアーカイヴされた素材(データベースや、彼らの身体の中に記録保管された素材)は、未来の作品を構成する重要な要素になり、将来、作品として提示されるとき、飛躍した解釈、でたらめな想定などを含む想像力が加味されながらアーティストならではのロジック構築を行う時使われます。このプログラムの企画意図には、「アーティストの滞在制作とはいったいどういうものなのか」「アーティスト・イン・レジデンスで行われているアーティストのリサーチ活動はどういう内容なのか」という関心や疑問に対するひとつの資料的な提示になればという願いがありました。
今回は参加アーティストに対し「旅をする(移動と滞在)」チャンスを提供し、彼ら自身の未来の作品やプロジェクトのアイデアと成立を期待しました。近い将来、彼らの作品を前に、「こうきたか!」とか、「どうしてこうなるの?」「こうなったか!」という驚嘆と刺激的な裏切りと喜びをあたえてくれることを期待しつつ、アーティストの活動に思いを馳せ、その活動を支援する賛同者がひとりでも増えることを願っています。
ドキュメントに収められている「アーティストの視点、声や言葉、足跡」を見る方は、参加したアーティストがひとりひとり異なる視点で「場所」「時」を眺めていたことに驚かれるのではないかとおもいます。私自身も未知なる北海道や札幌を知る機会となりました。
このドキュメントはアーティストの活動の記録、つまり過去を記録したものですが、同時に彼らの未来の活動を示唆しています。そしてまた、新しい視点を伴っただれかの北海道、札幌へ、その人のうちなる世界への旅のガイドになるのかもしれません。
企画:さっぽろ天神山アートスタジオ AIRディレクター 小田井真美
プログラム・アシスタント:福原明子
インタビュー/コーディネート:漆崇博、鈴木萌、杉本直貴、小林大賀、託間のり子、川成由、(以上、AISプランニング)、斎藤ふみ(SIAF事務局)、福原明子、寺岡桃(アートとリサーチ プログラム・アシスタント)
撮影:佐藤亜梨沙(写真家)、張小船/ Boat ZHANG Xiaochuan(さっぽろ天神山アートスタジオ国際公募2016招聘アーティスト)、寺岡桃
ドキュメントウェブサイト制作:須之内元洋、水石清輝
1969年生まれ。1990年代初頭より世界中の多くの場所を旅しながら、そこに生きる人々の生活や新しいコミュニケーションのあり方に関するパフォーマンスやインスタレーション作品などを制作している。2004年よりベルリン(ドイツ)を拠点に世界各地で数多くの作品を発表。パリのポンピドゥ・センター、ロンドンのヘイワード・ギャラリーなどでのグループ展や2003年ヴェネチア・ビエンナーレ、2006年サンパウロ・ビエンナーレ、2015年ハバナ・ビエンナーレなどの国際展に参加。2013年には金沢21世紀美術館、2014年にはスイスのクンストハーレ・ベルンで個展を開催。2016年には、ロスアンジェルスやマドリッドのギャラリーでの個展を予定している。 2014年札幌国際芸術祭参加作家。
教員・研究者として札幌市立大学デザイン学部で活動。ソニー株式会社、サイボウズ・ラボ株式会 社勤務を経て現職。メディア環境学、情報科学、メディア・アーツ分野の研究を行う他、デジタル アーカイヴをはじめとした各種デジタルメディアの設計・デザイン・社会応用を行う。SIAF2014 プ ロジェクトマネージャー、Tokyo Art Research Lab(東京都)研究・開発プロジェクト監修など、 研究成果の社会還元にも取り組む。
藤木は1970年代後半から90年代半ばにかけて主に街中で行為性の強い作品を展開しており、個としての私と制度としての社会、この両者の間にある不可解な境界に対する意識化という考え方を行為によって確認しようとしてきた。これらは自らの身体と身近なメディアを通して、時として周囲と良い意味での共犯関係を結ぶようなアプローチとして行われている。90年代後半からは、より日常の些細な物事に目を向け、ここ数年はフィールドワークそのものの情報化や現場へのフィードバックを試みている。近年の活動には「竹圍工作室2013開放工作室最終回─藝術家行為日「魔法森林在魔法之國的天空飄舞」(Bamboo Curtain Studio、台北)、札幌CIA02での個展「もうひとつの都市と自然」(2014)、黄金町バザール2015/『特別プログラム:宮前正樹とワークショップ展』での「黄金町合宿所 ― 何年生ですか」(横浜)、札幌市内の小学校での滞在制作アーティスト・イン・スクールにおける「ハイズリマワッテミル」「学校の風景」(2014、2015、2016予定)などがある。
東京芸術大学彫刻科在学中から、自然と人間の関係に注目した作品発表活動を続ける。1996年から制作拠点を北海道へ移し、里山での生活実践と平行して北方の自然を背景とした民俗文化の探訪と共に作品を発表している。2005年からはじめた、東北、北海道、ロシア極東からアラスカ等へのフィールドワークでは、北方先住民が狩猟採集や交易による伝統的生活を現代へと継承してきた思考法や感性を生態系文化の視点から捉え、作品「北方圏における森の思想」の連作発表としてまとめた。「水と土の芸術際2012」(新潟)では、農耕以前の潟の文化と現在を重ね、新潟のマタギや獅子神楽などの地域の民俗文化や歴史をめぐる対話の空間を設えた。網走市立美術館の個展(2013年)では、発表場所の歴史性の特徴でもあるオホーツク文化の痕跡から、北方先住民の伝統的生活へと関連した作品「北方圏における森の思想cipasir」を発表した。「奔別アートプロジェクト2013・2014」(北海道)では、炭礦の伝統文化を背景にしたフィールドワーク・アクションを行い、古の山師の儀礼を再生する空間を設えた。2014年からは、石川県・奥能登での「上黒丸アートプロジェクト」にて、能登半島と北海道を行き来しつつ、里山や漁撈・鯨文化の民俗資料を引用したインスタレーションやフィールドワーク・アクション「上黒丸鯨組」を行い、本年2月「第2回 鯨談義」の空間を設えるなどの作品制作と発表を継続中。
1967年東京生まれ、在住。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン専攻卒業。絵による映像表現として、一コマずつのドローイングと透過光を加えた撮影のアニメーション作品を制作。異なる分野の表現者との共同で、演劇やダンスの公演での上映や、特に音楽家「オルガノラウンジ」や「VOQ」との、映像と音楽の空間表現を行う。映像作品の国内外での展示や、手製映像装置「絵巻物マシーン」シリーズを用いたワークショップを地域の学校や公共文化施設などで積極的に実施している。
1973年山形県生まれ、東京都在住。 Wimbledon School of Art修士修了後、国内外にて個展・グループ展による発表多数。記憶と身体との関係性を見つめ続けながら、創造の瞬間を捉える実験的なドローイングや、鉛筆の線画を早回ししたアニメーション作品を制 作。現在、朗読体験を通じて人々をつなげるプロジェクト[Re-constellation] に取り組み、映像、公演等様々な表現活 動を展開している。
村田 真
1954年、東京生まれ、東京造形大学卒業。『ぴあ』美術編集者を経てフリーランスの美術ジャーナリスト。美術館、パブリックアート、ストリートアート、アウトサイダーアート、洞窟壁画、戦争画など、美術と社会との接点や芸術と非芸術の境界線に関心がある。おもな著書に『美術家になるには』『artscape 1999-2009 アートのみかた』、おもな共著に『パフォーマンス・ナウ』『社会とアートのえんむすび』『工事中 KAWAMATA』、訳書にジュード・ウェルトン著『絵との対話』などがある。慶応義塾大学、実践女子大学、東京造形大学非常勤講師、BankARTスクール校長を務める。
1988 年生まれ。北海道長万部町出身。2013 年、明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。狩猟や農耕といった自然との関わりを直に体験することで、作品イメージを組み立てていく。類比的思考によってイメージやストーリーを取り込む作品世界観は、 北海道各地や関東、四国など様々な土地に行き来することで広がりを見せている。作家活動の他、2015年から長万部写真道場研究所を設立し、開拓写真の調査と資料アーカイブを行っている。
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『イヤシノウタ』『下北沢について』がある。noteにてメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」を配信中。